生成AI導入が「担当者一人」で止まる理由。全社に広げる3つの問い
生成AIを社内に導入したのに、気づけば一部の担当者や特定の部署でしか使われていない、という方も多いのではないでしょうか。自分はうまく使えるようになったのに、その使い方が周りに広がらず、いつの間にか自分一人だけが頼られている、という声もよく聞きます。
ただ、これは担当者の熱意が足りないからではなく、「どう広げるか」という設計が抜けているために起きる問題です。
そこで本記事では、
・生成AI導入が「担当者一人」で止まってしまう構造
・全社へ広げるための「誰が・何を・どう広げ続けるか」という3つの問い
・国内企業が実際に全社展開した事例
についてわかりやすく解説します。生成AIを社内に広げたいDX推進・情シス・経営企画の方は、ぜひ最後までご覧ください。
生成AI導入を「一部の担当者で終わらせず、全社で使える状態にしたい」という方はリベルクラフトへご相談ください。
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生成AI導入とは|「入れた」と「使われる」は別物
生成AI導入とは、ChatGPTのような生成AIツールを、業務で使える形で社内に取り入れることを指します。ツールを契約するだけでなく、利用ルールを整え、どの業務でどう使うかを設計し、現場が日常的に使える状態にするまでが導入の範囲です。
ここで押さえておきたいのは、「導入した」と「使われている」はまったく別だということです。会社としてツールを入れても、実際に使うのが一部の人だけなら、投資に見合った成果は出ません。
生成AI導入で何が変わるのか
生成AIをうまく取り入れると、文書やメールのたたき台作成、議事録の要約、社内問い合わせへの回答、企画書の下書きといった日常業務の時間を大きく減らせます。総務省の情報通信白書でも、企業の約75%が生成AIに「業務効率化や人員不足の解消につながる」と期待していると報告されています。効率化だけでなく、空いた時間を判断や対話といった人にしかできない仕事へ振り向けられる点が、本来の価値です。
導入は6割、でも日常的に使う従業員は半分
期待が高い一方で、現実には大きなギャップがあります。生成AIを導入済みの企業は57.7%に達し、検討中を含めると76%に上ります(2023年度の33.8%から2年で大幅に増加)。ところが、業務でAIを日常的に使っている日本の従業員は51%にとどまり、世界平均の72%を大きく下回ります。

つまり、会社としては入れたのに、現場では一部の人しか使っていない、という状態が広く起きています。この「入れた」と「使われる」の差の中に、担当者一人で止まる属人化の問題が潜んでいます。
参照:日本企業のAI活用実態|BCG・IT活用実態調査2025|NRI
なぜ生成AI導入は「担当者一人」で止まるのか
導入したのに広がらないのは、偶然ではなく構造的な理由があります。ここでは、生成AI導入でよく生まれる属人化・サイロ化の課題を、3つの側面に分けて見ていきます。

全社方針の不在(方針策定42.7%)
最初の要因は、会社としての方針がないことです。生成AIの活用方針を明確に定めている日本企業は42.7%にとどまり、米国・ドイツ・中国が90%超であるのと比べて大きく遅れています。どの業務で・何のために・どこまでのリスクを許容して使うのかが曖昧なまま、各部門がバラバラに試すと、成功しても共有されず、熱心な担当者がいる部署だけで活用が止まります。
シャドーAIという見えない二重構造
2つ目は、会社が公式に認めていない生成AI、いわゆるシャドーAIの存在です。ある調査では、会社非公式のAIを使う人が34.8%おり、その多くが「ほぼ常時」「1日複数回」という高頻度で利用していました。一方、使わない人の約8割はセキュリティやコンプライアンスへの不安を理由に挙げています。
結果として、得意な人は非公式に使い倒し、不安な人は近づかないという二極化が起きます。活用ノウハウは個人の手元に閉じたままで、組織には蓄積されません。
参照:AI活用実態調査2025|SIGNATE(PR TIMES)
AIチャンピオン依存の落とし穴
3つ目は、AIチャンピオン依存です。現場でAI活用をリードする少数の人材に、ツール選定・プロンプト開発・社内サポートまでが集中している状態を指します。チャンピオンの存在自体は貴重ですが、ノウハウが本人の頭やローカル環境に留まると、異動・退職・多忙で一気に後退するリスクになります。さらに、推進活動が本来業務への上乗せになっていると、その人が燃え尽きてしまいます。
方針・シャドーAI・チャンピオン依存の3つが重なると、「導入は進むのに、活用は担当者一人で止まる」という状態が固定化されます。
生成AI導入の基本ステップと、全社展開でつまずくポイント
なぜ止まるのかを見たところで、正攻法の進め方と、どこでつまずくのかを整理します。生成AI導入は、一般に次のステップで進めます。

課題定義 → PoC → 本格導入 → 全社展開 → 運用
- 課題定義:どの業務の・何を・どれくらい改善したいのかを具体的に決めます。「AIを入れる」ではなく「問い合わせ対応の時間を減らす」のように目的から考えます。
- PoC(試験導入):特定の部署や業務に絞って小さく試し、効果とリスクを検証します。
- 本格導入:効果が確認できた業務に、ツールとルールを整えて本格的に取り入れます。
- 全社展開:一部署の成功を他部署・他業務へ横に広げます。
- 運用・評価:利用状況を見ながら、テンプレートや研修を更新し続けます。
多くの企業は、課題定義からPoC、本格導入までは進めます。つまずくのは、この後の「全社展開」と「運用」です。一部署で成功しても、それを横に流す仕組みがないため、成功が隣の部署に届かないのです。
「配れば広がる」「研修すれば終わり」という3つの誤解
全社展開でつまずく背景には、よくある3つの誤解があります。
- ツールを配れば広がる:配っただけでは使われません。使う理由・使い方・成功事例の共有が要ります。
- 研修を一度やれば終わり:学んでも、使う場と機会がなければスキルは定着しません。
- 推進は得意な担当者に任せておけばいい:一人依存は属人化そのもので、仕組みと体制で支える必要があります。
この「配る・教える・任せきり」から抜け出す鍵が、横展開を設計対象として捉えることです。ここからは、横展開を「誰が・何を・どう広げ続けるか」という3つの問いに分けて具体化していきます。
問い①誰が広げるか|推進体制と人材
つまずきの正体は、横展開の設計不足です。まず「誰が広げるか」から考えます。DX推進企業の78.3%が「期待した成果が出ていない」と回答した800社調査では、成功企業との決定的な差は「経営層のコミットメント」と「明確なKPI」でした。広げる主体を、担当者一人でなく組織として設計することが出発点です。

経営・CoE・現場の三層で役割を分ける
横展開の主体は、次の三層で役割を分けると整理しやすくなります。
- 経営層:方針・KPI・予算を決め、繰り返し発信して「会社の重要課題」と位置づける。
- CoE(横断推進組織):各部門のニーズを束ね、共通ツール・ガイドライン・教育・成功事例の横展開を担う。
- 現場:共通基盤を使い、自部門の業務に合わせた使い方を作り込む。
属人化は、この三層が揃わず現場の一人が全部を背負うことで起きます。まず役割を分けることが、横展開の第一歩です。
CoE(横断推進組織)で成功事例を横に流す
CoEはCenter of Excellenceの略で、部門を横断してAI活用を推進する専任の旗振り役です。各部門がバラバラに試して成功しても、それを他部署へ流す担い手がいなければ属人化は続きます。CoEは、共通ツールやガイドライン、教育プログラムを整え、ある部署の成功事例を他部署へ横に流す役割を担います。大がかりな部署を作る必要はなく、まずは兼任の小さなチームから始めても構いません。
アンバサダー制度でチャンピオンを孤立させない
現場では、チャンピオン依存を解く仕組みとして「アンバサダー制度」が有効です。各部門からAIアンバサダーを選び、CoEと連携して自部門の使い方開発・勉強会・ナレッジ共有を担ってもらいます。これにより、一人に集中していた負荷とノウハウが分散し、チャンピオンは「依存される個人」から「組織化された推進役」へ変わります。属人化の解消は、優秀な一人を増やすことではなく、広げる役割を複数に分けることです。
推進活動を評価・キャリアに組み込む
体制を作っても、推進が本来業務への無償の上乗せだと長続きしません。アンバサダーやCoEメンバーの活動に一定の工数を正式に割り当て、AI推進活動を評価制度やキャリアパスに反映することが重要です。広げる人が報われる設計にして初めて、横展開は持続的な活動になります。
問い②何を広げるか|標準化とナレッジ
広げる主体が決まったら、次は「何を」広げるかです。属人化の核心は、うまく使えるプロンプトや手順が個人の頭の中に埋もれていることでした。横展開とは、この個人のコツを、組織が再利用できる形に取り出して配ることです。広げるべき中身は、大きく4つに分けられます。

広げる価値が大きいユースケースから選ぶ
全業務を一度に対象にせず、広げる価値が大きいものから選びます。狙い目は、頻度が高く・多くの部署に共通し・ある程度定型的な業務です。議事録の要約、メールや文書のたたき台作成、社内問い合わせ対応、企画書の下書きなどが典型です。一部署で効いた使い方が他部署でもそのまま効くかどうか、という横展開のしやすさを基準にします。
プロンプトとワークフローを標準化する
広げる中身の中核が、プロンプトの標準化です。よく使う業務について、効果が実証されたプロンプトを部門共通のテンプレートとして用意します。これにより、AIに不慣れな人でも「型」を選ぶだけで一定の成果を出せ、属人的なコツが組織の標準になります。例えば製造業なら、不具合報告の分析や点検記録の要約といった業務特化のプロンプト集も有効です。テンプレートはCoEやアンバサダーが作り、現場の声で定期的に見直す「生きた標準」にします。
成功事例が集まり検索できるナレッジの場をつくる
標準を機能させるには、ナレッジが集まり検索できる場が要ります。成功事例・プロンプト集・失敗例を社内ポータルやテンプレート集に蓄積し、全社員がアクセスできる形で運営します。場がなければ、ある部署の成功は隣の部署に届かず、同じ試行錯誤が各所で繰り返されます。「誰がどんな使い方で成果を出したか」が見える状態が、横展開を加速します。
職種別・レベル別のリスキリングと「使う場」
広げる中身には「スキル」も含まれます。全社員向け(基本の使い方・プロンプトの基礎・セキュリティ)、推進役やエンジニア向け(業務への組み込み)、専門人材向け(高度な設計)と、役割に応じた階層で学習を設計します。全員に同じ研修を一度やるだけでは活用は底上げされません。企業向け研修サービス市場は2024年度の5,858億円から2025年度は6,130億円へと拡大し(前年比+4.6%)、AI研修が中心テーマになりつつあります。そして、学んだ直後に自部門の実務で試せる課題を用意し、成果を可視化する循環をつくることが、スキルを組織に根付かせる条件です。
ここまで生成AI導入を全社に広げる中身について解説しましたが、「AI活用を一部の担当者で終わらせず、全社で使える状態に広げたい。ただ、標準づくりや研修、推進体制を自社だけで組むのが難しい」という方は、リベルクラフトへご相談ください。
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問い③どう広げ続けるか|仕組み化・KPI・ガバナンス
主体と中身が決まっても、一度広げて終わりにすると元に戻ります。最後の問いは、横展開を回し続ける仕組みです。

一気に全社でなく「実証→横展開」で広げる
広げ続ける第一歩は、いきなり全社展開を狙わないことです。特定業務で生成AIを先行導入し、改善を重ねながら段階的に適用範囲を広げます。標準化された業務は成果を見せやすく、その成功を基に他部門・他チャネルへ横展開できます。小さく実証して成果を可視化し、社内の支持と予算を得て次へ進む、という順序が、全社一斉導入の頓挫を避ける現実的な広げ方です。
ガバナンスでシャドーAIを「正規化」する
広げ続けるにはガバナンスが要ります。ただし、禁止一辺倒ではシャドーAIの二重構造は解けません。得意な人は隠れて使い続け、不安な人は離れたままです。対策は、「使ってはいけない情報」と同時に「こう使えば安全」という条件・推奨ツール・確認ルールを示すことです。これにより、隠れていた活用が正規環境に出てきて組織で共有でき、不安を理由に離れていた層も安心して使い始めます。ガバナンスは活用を縛るためでなく、安全に広げるための仕組みです。
横展開のKPIを決める(利用率・部署数・削減効果)
横展開そのものを測るKPIも欠かせません。代表的な指標は次の3つです。
- 月間利用者率:一部の人だけでなく、広く使われているか。
- 活用している部署数・業務数:横に広がっているか。
- 業務時間の削減効果:成果が出ているか。
何を測るかを先に決めておくと、経営は次の投資を判断でき、現場は成功を実感できます。指標がないと、広がっているかが分からず投資も止まってしまいます。
現場浸透の3つの落とし穴
最後に、広げ続けるうえで避けたい落とし穴を3つ挙げます。
- 「AIで人を減らす」と打ち出す:置き換えを前面に出すと現場は協力しません。生んだ余力を人にしかできない仕事へ振り向ける、と語ることが支持を得る鍵です。
- 一度広げて放置する:利用ログを見ずに放置すると、テンプレートは古くなり現場は離れます。ログと現場の声を分析し、更新し続けます。
- 経営と現場が分断する:方針だけでも現場だけでも進みません。CoEと、共通言語としてのKPI・成功事例で両者をつなぎます。
生成AI導入・全社展開に成功した企業事例
ここまでの型を、実際に全社展開した企業で確認します。いずれも各社が公開している数値です。
パナソニックコネクト|効果を定量化して広げる
パナソニックコネクトは、2024年の生成AI活用による業務時間削減を年間44.8万時間(前年の約2.4倍)と定量化し、利用回数240万回、月間ユニークユーザー率49.1%(前年比+14.3ポイント)まで可視化しました。効果を数値で見せることで、活用が一部の人でなく全社に広がっていることを社内外に示せます。
サイバーエージェント|ガイドライン×コンテスト×研修
サイバーエージェントは、2023年4月に全社向けの生成AI活用ガイドラインを公開して「安心して使える線」を示し、同年9月には賞金総額1,000万円規模の全社活用コンテストで攻めの活用を促しました。さらに、全社員向け・エンジニア向け・機械学習エンジニア向けの3層でリスキリングを行い、スキル差を埋めています。守りのガイドライン・攻めのコンテスト・底上げの研修という三位一体で、活用を特定部門に閉じさせませんでした。
参照:生成AI活用の全社的な取り組み|CyberAgent Developers Blog
旭化成・三菱UFJ銀行|形式知化と実証から横展開
旭化成は、社内のデジタル人材育成プログラムの中に生成AIコースを設け、製造現場の技術伝承、つまり属人的なノウハウの形式知化に活用しています。三菱UFJ銀行は、コールセンターという特定業務で生成AIを先行導入し、アジャイルに運営しながら段階的に適用範囲を広げています。特定業務で実証してから横展開する型の具体例です。
参照:旭化成のDX人材育成|旭化成・コールセンターのDX|三菱UFJ銀行
これらの事例に共通するのは、経営のコミットと推進体制、ガイドラインによる安心、コンテストや可視化による攻めの活用、リスキリング、特定業務での実証から横展開、という要素の組み合わせです。今回の3つの問いと重なります。
まとめ|生成AI導入を「一人の頑張り」から「組織の能力」へ
本記事では、生成AI導入が担当者一人で止まる構造と、それを全社へ広げる設計を解説しました。要点は次のとおりです。
- 生成AI導入は6割に達する一方、日常的に使う従業員は半数程度。「入れた」と「使われる」は別物で、方針42.7%・シャドーAI・チャンピオン依存が属人化を固定化する
- 課題定義からPoC、本格導入までは進んでも、多くの企業は「全社展開」と「運用」でつまずく。「配る・教える・任せきり」では広がらない
- 横展開は「誰が広げるか(三層体制・CoE・アンバサダー)」「何を広げるか(ユースケース・標準プロンプト・ナレッジの場・階層別研修)」「どう広げ続けるか(実証→横展開・ガバナンス・KPI)」の3つの問いで設計する
- 国内企業の全社展開事例も、経営コミット・体制・ガイドライン・研修・実証からの横展開という共通の型を持つ
生成AI導入を一人の頑張りで終わらせず、組織の能力に変える。その第一歩として、自社ではどの問いから手をつけられそうかを考えるところから始めてみてください。
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本記事で解説した「横展開を設計する3つの問い」は、ウェビナーで使用したスライド資料に図解とあわせてまとめています。属人化の構造から三層体制・標準化・KPI設計までを、社内での検討・共有資料としてもお使いいただける形に整理しています。下記より無料でダウンロードいただけます。
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生成AI導入・全社展開の相談は「リベルクラフト」へ
ここまで読んで、「横展開の型は分かったが、自社でどこから手をつければよいか分からない」と感じた方も多いのではないでしょうか。3つの問いを自社の状況に当てはめて優先順位をつける段階こそ、外部の視点が役に立ちます。
リベルクラフトでは、全社員の基礎リテラシーから推進役・専門人材までの階層別AI研修と、CoE・アンバサダーといった社内推進体制づくりの伴走を提供しています。標準プロンプトの整備やナレッジ基盤の設計まで含めて、属人化を解く土台づくりを支援します。
次のようなニーズをお持ちの方に適しています。
- 一部の担当者はAIを使えるが、社内に広がらず止まっている
- 全社員のAIリテラシーを底上げしたいが、何をどう教えるか決めかねている
- 推進役・アンバサダーを育てて、属人化を解きたい
- 研修を一度やったが定着せず、横展開の仕組みに悩んでいる
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この記事を書いた人
慶應義塾大学で金融工学を専攻。 卒業後はスタートアップのデータサイエンティストとして、AI・データ活用コンサルティング事業などに従事。 その後、株式会社セブン&アイ・ホールディングスにて、小売・物流事業におけるAI・データ活用の推進に貢献。 株式会社リベルクラフトを設立し、AIやデータサイエンスなどデータ活用領域に関する受託開発・コンサルティングや法人向けトレーニング、教育事業を展開。


