暗黙知をAIで形式知化する4つの手順。属人化したノウハウをナレッジに変える方法
「熟練者が退職したら、その知識や経験はどう残せばいいのか」「スキルの高い人のやり方を若手に引き継ぎたいけれど、うまく言葉にできない」と悩みを抱える企業は少なくありません。
現場には、長年の経験から身についた知識や判断のコツがたくさんあります。
しかし、その多くはマニュアルや手順書だけでは伝えきれず、個人の担当者の中にある「暗黙知」として残っていることがあります。
こうした知識をAIの活用で、誰でも共有しやすい「形式知」に変えることができれば、技術や判断の基準を会社の大切な資産として残せるようになります。
そこで本記事では、
- 暗黙知と形式知の違い
- AIを活用して形式知化する必要がある理由
- 具体的な進め方と手順
- 取り組む際に気をつけたいこと
をわかりやすく解説します。暗黙知の形式知化を検討している方は、ぜひ最後までご覧ください。
「社内の暗黙知をAIで活用できる形にしたいが、どこから手をつければいいかわからない」という方は、リベルクラフトへご相談ください。
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暗黙知とは?
暗黙知とは、経験や勘をもとに身についた知識やコツのことであり、言葉にしたりマニュアルにまとめたりしづらい知識を指します。
たとえば、
- 営業の場面:このお客様には強引に提案しないほうがよさそうと感じる
- 工場の場面:機械の音がいつもと少し違うと感じる
のように過去の経験にもとづくものです。
このような知識は、本人も無意識に使っていることが多くあるため、「どうやって判断しているのですか?」と聞いても、うまく説明できなかったり、大事なポイントが抜けてしまったりします。
暗黙知は、簡単には教えられない知識だからこそ、ベテラン社員の退職や異動によって、技術や判断の基準が社内に残りにくくなります。
形式知との違い
形式知とは、文字・図・表・数字などで記録できる知識のことであり、マニュアルや手順書、仕様書などが代表的な例です。
暗黙知が「人の経験や感覚の中にある知識」であるのに対し、形式知は「誰でも見て確認できる形にまとめられた知識」といえます。
2つの違いを整理すると、以下のようになります。
| 項目 | 暗黙知 | 形式知 |
|---|---|---|
| 特徴 | 経験・感覚・勘にもとづく知識 | 文字・図・表・データで残せる知識 |
| 共有のしやすさ | 言葉にしにくく、伝えにくい | 内容が整理されていて、共有しやすい |
| 代表例 | 職人の技、顧客対応の判断、営業の勘 | マニュアル、手順書、仕様書、研修資料 |
| 伝え方 | 実際の仕事を通じて教える | 文書やシステムで見て確認する |
暗黙知を「形式知化」するためには、ベテラン社員だけが感覚で判断していたことを、判断のポイントや手順として整理し、若手社員でも参考にできる状態にすることが必要です。
ただし、熟練者本人でも、「なぜそう判断したのか」「どこを見て決めているのか」をはっきり説明できないことが多く、形式知化は簡単ではありません。
そこで注目されているのが、AIを活用して暗黙知を形式知化する方法です。
暗黙知をAIで形式知化する必要性
暗黙知を形式知にすることは、以前から多くの企業で課題とされてきました。
人の聞き取りやマニュアル作成だけでは、ベテラン社員の知識や判断のコツを十分に引き出すのは難しいためです。
ここでは、暗黙知の形式知化にAIを活用すべき理由を3つに分けて解説します。
- 人だけでは暗黙知を十分に引き出しきれないため
- 業務データから知識の共通パターンを見つけやすいため
- 形式知化したナレッジを継続的に更新しやすくするため
人だけでは暗黙知を十分に引き出しきれないため
ヒアリングだけで暗黙知を引き出すのは簡単ではありません。
ベテランの判断や行動は、長年の経験から自然に行われているため、自身も「なぜそう判断したのか」をはっきり説明できないことが多いからです。
そのため、後から理由を聞いても、
- 「経験上、そう感じた」
- 「なんとなく、そうした方がよいと思った」
という答えになりやすいです。

一方でAIは、チャットのやり取り、問い合わせ履歴、メール、会議録などの業務データを分析できます。
実際の行動の記録から知識を見つけられるため、本人も気づいていない判断のくせや傾向を整理しやすくなります。
業務データから知識の共通パターンを見つけやすいため
暗黙知を形式知にするうえで大切なのは、担当者のやり方をそのまま記録することだけでなく、複数の事例に共通する判断基準や、うまくいったパターンを見つけることです。
しかし、数百件の問い合わせ対応の中から「うまくいった対応の共通点」を探すには、多くの時間と手間がかかります。
AIを活用すれば、大量のデータの中から
- よくある課題や質問
- 解決につながった対応の傾向
- 判断が分かれるポイント
- 成果につながった行動の共通点
などを整理しやすくなります。

AIは、人が見落としやすい傾向やつながりも見つけやすいため、ヒアリングだけでは見えにくい「現場ならではのルール」を整理することができます。
形式知化したナレッジを継続的に更新しやすくするため
業務は日々変わるため、一度形式知化したマニュアルやナレッジも、定期的に見直す必要があります。
しかし、人手だけで更新を続けるのは簡単ではなく、
- 最後に更新したのが2年前
- 今の現場のやり方と合っていない
など、気づけば古い内容のまま放置されてしまうことがあります。
AIを活用すれば、新しい業務データをもとに内容の整理や分類をしやすくなり、人が初めから作るのではなくAIがまとめた内容を人が確認・修正する形にできます。

そのため、更新の負担を減らしながらナレッジを新しい状態に保ちやすくなります。
AIを活用して暗黙知を形式知化する方法
暗黙知を形式知にするAIの使い方は、対象の業務内容や扱うデータ、目的などによって変わります。
ここでは、代表的な4つの方法を紹介します。
- AIエージェントで知識の抽出・分類・記事化を行う
- ナレッジグラフで判断の関係性を構造化する
- ファインチューニングで表現や判断スタイルを学習させる
- RAGを活用して社内ナレッジとして検索可能にする
AIエージェントで知識の抽出・分類・記事化を行う
業務データから暗黙知を形式知化する方法の一つが、AIエージェントの活用です。
AIエージェントは、「データを集める」、「整理する」、「分類する」といった作業をまとめて自動で進められるため、人が1件ずつ確認する手間を減らせます。
たとえば、チャットログやメール、問い合わせ履歴などをAIに読み込ませると
- よくある判断パターン
- うまくいった対応事例
- 失敗につながりやすい原因や兆候
のような内容を自動で整理でき、必要な情報を見つけやすくなります。
ただし、AIエージェントを使うときは、初めの指示が重要です。
AIは与えられた指示をもとに情報の整理を進めるため、
- どの基準で分類するのか
- どのような形でまとめるのか
などが曖昧だと、意図と違う分類になったり現場で使いにくい形で整理されてしまうことがあります。
たとえば、問い合わせ履歴を整理する場合でも、「問い合わせ内容のカテゴリ別」や「対応の成功・失敗別」に分けるのかによって整理方法が変わるため、整理したい方法に合わせて具体的に指示をする必要があります。
ナレッジグラフで判断の関係性を構造化する
ナレッジグラフとは、情報同士のつながりを整理する方法です。
通常のマニュアルでは情報を文章や表でまとめますが、ナレッジグラフでは、製品、症状、原因、対応策などの情報を分け、それぞれの関係をつなげて整理します。
暗黙知には、「この状況なら、この対応がよい」といった関係性のある判断のコツが多く含まれていますが、マニュアルだけでまとめるとどの条件でどの対応をするべきなのかが見えにくくなります。

ナレッジグラフを使えば、「製品Aでこの症状が出た場合は、この原因が多く、この対応が有効だった」といった流れを整理できます。
そのため、AIが過去の事例を参考にしやすくなり、今の状況に近いケースをもとに、より適切な回答を出しやすくなります。
ファインチューニングで表現や判断スタイルを学習させる
ファインチューニングとは、AIに追加のデータを学習させ、回答の傾向を調整する方法です。
暗黙知を形式知化する際には、「何を書く」だけでなく、「どのように書くか」も大切です。
同じ内容でも、社内の言い回しや顧客対応のトーンに合っていないと、現場では使いにくい回答になってしまいます。
そこで、
- 社内でよく使う言い回し
- 顧客対応での言葉の選び方
- 提案文の流れや構成
- 品質チェックやレビューの観点
のような内容をAIに学習させることで、AIが社内らしい表現や判断の流れに近い回答を出しやすくなります。

特に、形式知化した内容の品質を一定に保ちたい場面や、判断のばらつきを減らしたい場面で有効です。
RAGを活用して社内ナレッジとして検索可能にする
RAGとは、社内文書や業務データを検索し、その内容をもとにAIが回答を作る仕組みです。
暗黙知を形式知化しても必要なときに見つけられなければ日常業務では使いにくいため、RAGを導入することで、整理した知識を「質問すれば探せる状態」にできます。

たとえば、
- 過去に似たトラブルが起きたとき、どう解決したのか
- この顧客タイプには、どの提案方法が効果的だったのか
- 以前の会議で、誰がどの方針を決めたのか
のような社内情報をAIが探し関係する内容をまとめて回答するため、人が資料を1つずつ確認する手間を減らせます。
こうした仕組みがあることで、特定の人に聞かなくても、社内に蓄積された知識をもとに判断しやすくなります。
RAGの精度を高める方法や具体的な活用事例について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
参照記事:RAGの精度向上施策・事例紹介 〜成功事例からRAGの具体的活用方法を学ぶ〜
リベルクラフトでは、業務内容や現場の課題を踏まえて、
- どの暗黙知を形式知化すべきか
- どのデータをRAGで活用すべきか
などの社内データの整理から支援しており、自社だけで試行錯誤する負担を減らしながら進められます。
また、現場で使いやすいRAGの検索・回答や、運用後に改善し続けるための仕組みづくりまで行うことができる点も強みです。
社内に眠っているノウハウを必要なときに活用しやすくなり、特定の人に依存しないナレッジ共有につなげられますので、ぜひ以下のリンクからお気軽に相談してみてください。
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AIで暗黙知を形式知化する具体的な手順
AIで暗黙知を形式知化する際にデータが整理されていないままだと、AIが必要な情報をうまく探せず使いにくいナレッジになってしまいます。
大切なのは、整理・分類し、検索しやすい形に整えることであり、ここでは具体的な4つの手順を説明します。
- 形式知化したい暗黙知の対象業務を定義する
- 収集したデータをカテゴリ化する
- RAGが参照しやすいナレッジへ再構成する
- RAGで運用・改善する
1.形式知化したい暗黙知の対象業務を定義する
最初に決めるべきことは、「どの業務の」、「どの判断を」誰が使えるようにするのかです。
対象があいまいなまま進めると、情報が多く集めても使いにくいナレッジになってしまいます。
決めておきたいポイントは、次の3つです。
| 決めるポイント | 例 |
|---|---|
| 形式知化する対象業務を明確にする | 製造ラインの点検、営業提案、問い合わせ対応など |
| 特に共有する価値が高い判断を優先する | よくある判断ではなく、難しいけれど価値の高い判断 |
| その知識を活用する人を明確にする | 新人、異動してきた社員、特定部署の担当者など |
たとえば、製造業であれば「故障対応や設備点検のノウハウ」、営業部門であれば「受注につながった提案パターン」などが対象になります。
最初から全社で進めるのではなく、効果が出やすい1〜2つの業務に絞って始めると進めやすくなります。
2.収集したデータをカテゴリ化する
対象にする業務が決まったら、集めたデータをカテゴリごとに整理します。
このとき大切なのは、最初から人が分類の基準を決めずにAIを活用し大量のデータを分析し傾向やパターンを見つけ、共通する内容をもとにカテゴリから自動で作成することです。
具体的には、次のような流れです。
| AIの役割 | 内容 |
|---|---|
| カテゴリを見つける | 整理されていないデータを分析し、共通するテーマを見つける |
| データを分類する | 見つけたカテゴリに合わせて、各データを振り分ける |
たとえば、顧客の問い合わせデータであれば、
- 価格に関する質問
- 導入前の不安
- トラブルへの対応
- 使い方に関する相談
といったカテゴリをAIが自動で作成し、実際の内容をこのカテゴリに沿って分類していきます。
3.RAGが参照しやすいナレッジへ再構成する
カテゴリごとに分けたデータは、そのままRAGとして活用するのではなく、検索しやすい形に整える必要があります。
まずは、業務に関係のない
- 不要な挨拶や定型文
- 同じ内容の繰り返し
- 古くなった情報
などの情報を取り除きます。
そのうえで、あとから見ても使いやすいようにたとえば以下の項目と内容に整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 課題 | どんな状況で、何が問題だったか |
| 原因 | なぜ問題が起きたのか |
| 判断基準 | どの条件で、どう判断したのか |
| 対応策 | 実際に行った対応 |
| 結果 | 対応後にどうなったか |
| 注意点 | 次に同じ状況が起きたときに気をつけること |
| 適用条件 | どのような場合に使える対応なのか |
このように整理しておくと、AIが必要な情報を見つけやすくなり「似たトラブルでは何を原因と考えたのか」「どの対応が有効だったのか」といった情報を、ピンポイントで引き出しやすくなります。
4.RAGで運用・改善する
ナレッジを整理したら、AIが検索できるようにし、担当者が普段の言葉で質問すると関連する情報をもとにAIが回答するRAGの仕組みを作ります。
RAGの運用を始めた後は、
- 実際に使って確認する
- 原因を見つける
- ナレッジを更新する
といった形で使いながら改善していくことが大切です。
特に、現場からのフィードバックを反映し続けることで、回答の精度や使いやすさを高められます。
こうした改善を継続することで、RAGは一度作って終わりの仕組みではなく、業務に合わせて成長するナレッジになっていきます。
暗黙知をAIで形式知化する際の注意点
AIを活用すると暗黙知の形式知化は進めやすくなりますが、使い方を間違えると現場で使いにくいナレッジが増えたり、情報漏えいのリスクが高まったりすることがあります。
そのため、AIを導入する前に注意点を理解しておくことが大切であり、ここでは特に押さえておきたい3つの注意点を解説します。
- AIに投入する前にデータ品質を整備する
- 暗黙知を過度に単純化しない
- 機密情報・個人情報・権限管理を前提に設計する
AIに投入する前にデータ品質を整備する
AIやRAGで扱うデータの質が低かったり元の情報が間違っていたりすると、どれだけ便利な仕組みを作っても正しい回答は出にくくなります。
データを入れる前に、
- 情報に間違いや誤字がないか
- 特定の担当者や期間のデータだけに偏っていないか
- 同じ意味の言葉が別の表現になっていないか
などの点を確認することが大切です。
現場の判断力は、成功事例だけでなく、失敗時の対応や例外的なケースからも作られます。
成功事例だけに偏ると失敗しそうな可能性や例外の内容などが抜け落ちるため、質の高いナレッジを作るには、成功・失敗・例外を含めた幅広いデータを集めることが大切です。
暗黙知を過度に単純化しない
AIで大量のデータを整理するときは、「何をしたか」だけではなく「なぜそう判断したのか」「どのような状況で有効だったのか」まで含めることが重要です。
熟練者の判断には、
- 過去の失敗から得た経験
- 顧客や現場の状況
- 判断したタイミング
- 注意すべきパターン
などさまざまな要素が関係しているため、結果だけをまとめてしまうと今回の状況でも同じ対応でよいのか判断できず実際の現場で使いにくくなります。
「どんな条件で有効なのか」、「失敗しやすいパターンは何か」、「使わない方がよい状況はあるか」もセットで整理し、AIがまとめた内容を担当者が確認し、足りない情報を補うことで、暗黙知を単純化しすぎるリスクを減らせます。
社内データの集め方や整理方法について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
参照記事:データ収集の方法と分析への活用法を徹底解説(成果につなげるフレームワーク付き)
機密情報・個人情報・権限管理を前提に設計する
暗黙知を形式知化するときは、業務データを広く集めて整理するため、機密情報や個人情報が含まれることがあります。
「社内だけで使うから問題ない」と考えてセキュリティ対策をしないまま進めると、見せてはいけない情報が関係のない社員に共有されてしまうおそれがあります。
安全に進めるためには、
- 何を対象にするかを決める
- 誰が何を見られるかを制限する
- 個人情報を隠す処理をする
などを設計の段階で決めておくことが大切です。
また、利用開始後もアクセス権限やデータの扱いを定期的に見直すことで、情報漏えいのリスクを抑えられます。
データ・ナレッジの活用は「リベルクラフト」
ここまで、暗黙知と形式知の違い、AIを活用する理由、具体的な方法や手順、注意点について解説してきました。
暗黙知の形式知化は、データを集めてAIに入れるだけではうまくいかず、対象とする業務を決め、データを整理し、ナレッジとして使いやすい形に整え、権限管理や運用改善まで考える必要があります。
そのため、社内だけで進めようとすると、
- 「何から始めればいいかわからない」
- 「どのデータを使えばよいかわからない」
- 「AIを導入しても現場で使われるか不安」
といった課題に直面することがあります。
リベルクラフトでは、社内に蓄積された暗黙知や業務ノウハウを、AIやRAGで活用できる形に整理するところから支援しています。

単にAIを導入するのではなく、現場で使われ、継続的に改善できるナレッジとしてAIの活用が定着するまで伴走できます。
社内に蓄積されたノウハウをうまく活かしたい企業は、まずは以下のリンクからお気軽にお問い合わせください。
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この記事を書いた人
慶應義塾大学で金融工学を専攻。 卒業後はスタートアップのデータサイエンティストとして、AI・データ活用コンサルティング事業などに従事。 その後、株式会社セブン&アイ・ホールディングスにて、小売・物流事業におけるAI・データ活用の推進に貢献。 株式会社リベルクラフトを設立し、AIやデータサイエンスなどデータ活用領域に関する受託開発・コンサルティングや法人向けトレーニング、教育事業を展開。



