AI戦略の立て方。優先順位・段階・体制で描くAI導入ロードマップ

「自社でもAIを使い始めた。でも、次に何へ、どの順番で、どんな体制で広げればいいのかが描けない」という推進担当の方も多いでしょう。ツールは入った、試した部署もある、ただ会社としての成果にはなっていない。そんな状態で止まっている企業は少なくありません。

止まっている原因は、多くの場合、技術力ではありません。広げ方の設計、つまりAI戦略が無いまま単発の試行を重ねていることにあります。

そこで本記事では、
・自社のAI導入がPoC(試験導入)で止まる原因と、先に外しておきたい思い込み
・何から着手するかを決める優先順位のつけ方
・3年のAI導入ロードマップと、それを回す体制の作り方
についてわかりやすく解説します。AI・DXの推進を任されている方は、ぜひ最後までご覧ください。

「自社のAI戦略をどこから描き始めればいいか整理したい」という方は、リベルクラフトへご相談ください。
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なお本記事で扱うのは、政府の「AI基本計画」のような国のAI戦略ではなく、一企業が自社のAI活用をどう設計するかという話です。

AI戦略を描く前に。なぜ自社のAI導入はPoCで止まるのか

AI戦略の中身に入る前に、そもそもなぜ多くの企業のAI導入が途中で止まるのかを整理します。原因を取り違えたまま対策を打つと、精度改善やツールの入れ替えを繰り返すだけで前に進まないためです。

導入は6割に届いた。伸びていないのは「効果の実感」

企業のAI導入そのものは、すでに珍しいことではなくなりました。PwC Japanグループの「生成AIに関する実態調査2025春」では、日本企業の生成AI活用は56%、推進中を含めると76%に達しています。2023年春の実質ゼロから、2024年春43%、2025年春56%という伸び方です(参考:PwC「生成AIに関する実態調査2025春 5カ国比較」)。

伸びていないのはその先です。同じ調査で、生成AIの効果が「期待を大きく上回る」と答えた日本企業は10%にとどまりました。2024年春の9%からほぼ横ばいです。同じ設問で米国企業は33%から45%へ伸びています。

EYの調査でも似た構図です。従業員の88%が日常業務でAIを使っている一方、業務プロセスそのものを変えるような高度な使い方をしているのは5%でした(参考:EY「人材戦略の不備でAI活用による生産性向上効果を最大40%失っていることが判明」)。

個人が使う場面は増えた一方で、業務や事業の構造は変わっていない。点の成功は出ているが線になっていない、というのがいま多くの企業が置かれている状態です。テーマは「導入するかどうか」から「どう本格活用へ広げるか」に移りました。

PoC止まりを生む3つの不整合

点が線にならない典型が、PoCから本番運用に進めない状態、いわゆるPoC止まりです。PoCとは、小さく試して有効性を確かめる検証工程を指します。

AI導入がPoCで止まる原因を技術・組織・経済の3つの不整合に分解して示した図

現場で聞く限り、PoCが本番に進めない理由は3つに整理できます。

  • 技術の不整合:精度や応答速度が期待どおりにならず、業務で使える水準に届かない
  • 組織の不整合:出力はできたが、現場の業務フローのどこで誰が使うのかが決まっていない
  • 経済の不整合:投資対効果を経営に説明できず、次の予算が取れない

見落とされやすいのは2つ目と3つ目です。うまくいかなかったPoCの振り返りが「精度が足りなかった」で終わり、モデルやツールの選び直しに向かうケースは多いのですが、本当の詰まりは業務への組み込みが決まっていなかったこと、あるいは効果を金額で示せなかったことである場合が少なくありません。AI戦略を描くとは、この3つを最初から設計に含めるということです。

30%が見送り、95%が成果を示せていないという数字

この停滞は日本企業に限った話ではありません。Gartnerは2024年7月、データ品質の低さ、リスク管理の不十分さ、コストの増大、ビジネス価値の不明確さなどを理由に、生成AIプロジェクトの少なくとも30%が2025年末までにPoC後に見送られるという予測を出しています(参考:Gartner プレスリリース(2024年7月29日))。

MIT Media Lab の Project NANDA がまとめた「The GenAI Divide: State of AI in Business 2025」では、企業の生成AIパイロットの95%が測定可能な損益インパクトを出せていないと報告されました。原因はモデルの品質ではなく、業務との噛み合わせにあるとされています(参考:Forbes「MIT Finds 95% Of GenAI Pilots Fail Because Companies Avoid Friction」)。

この2つは混同されやすいのですが、30%はGartnerの見送り予測、95%はMITによる成果測定の調査で出どころが異なります。示しているのは同じことです。止まっているのは技術の限界ではなく、広げ方の設計です。

AI戦略づくりで先に外したい3つの誤解

PoC止まりが3つの不整合から生まれることが分かったところで、実際にAI戦略を描き始める前に外しておきたい思い込みを扱います。この3つを持ったままだと、着手そのものが重くなり、いつまでも動き出せません。

AI戦略づくりで先に外したい3つの誤解と、実際にはどう考えるかを対比した図

誤解1 完全に内製化しなければならない

「AIを自社の武器にするなら、開発まで自社でできるようにならないといけない」という前提です。これは目的と手段が入れ替わっています。

内製化そのものはゴールではありません。目的はノウハウを社内に蓄えることと、進め方の主導権を自社が持つことです。この2つは、企画・設計・意思決定を自社が握り、実装の一部を外部と分担する形でも十分に達成できます。初年度から内製比率を上げようとして人材採用に時間を使い、肝心のユースケース検証が1年遅れる方が損失は大きくなります。

誤解2 やるなら全社で一気に展開しなければならない

全社共通基盤を先に作り、全部署に同時展開する計画です。理屈は通っていますが、実行の難度が跳ね上がります。要件が部署ごとに違い、合意形成に時間がかかり、結局どこも使い始められない状態になりがちです。

現実的なのは、効果が見えやすい1つの業務で小さく成果を出し、その形を持って横に広げる進め方です。担当者一人で止めないための広げ方については、生成AI導入が「担当者一人」で止まる理由。全社に広げる3つの問いでも詳しく解説しています。

誤解3 精度は100%でなければ業務に使えない

生成AIは、事実と異なる内容をもっともらしく出力することがあります。これをハルシネーションと呼びます。この性質は使い方の工夫で減らせますが、ゼロにはなりません。

ですから、AIの出力を100%正しい前提で業務に組み込むのではなく、間違いが混ざる前提で工程を設計します。人が確認する場所を1か所残す、誤りが起きても影響が限定される業務から始める、といった設計です。この前提を経営層と現場の双方が共有しているかどうかで、運用に入ってからの摩擦がかなり変わります。

この3つを外すと、AI戦略で決めるべきことがはっきりします。AI戦略とは、次の3つを1枚に描くことです。

  1. 優先順位:何から着手するか
  2. 段階:どの順番で、どこまで広げるか
  3. 体制:誰が回すか

以降の3つの章で、この3要素を順に見ていきます。

AI戦略の柱1「優先順位」。何から着手するかを決める

思い込みを外したところで、AI戦略の中身に入ります。まずは優先順位、つまり手持ちの候補のどれから着手するかを決める作業です。

社内のAI活用アイデアを募ると、たいてい数十件は集まります。ただ、人も時間も予算も限られている以上、全部に手をつけると全部が中途半端になります。出発点は、洗い出した候補を1件から数件に絞ることです。

インパクトと実現性の2軸で候補を並べる

候補を絞るときに使いやすいのが、次の2軸のマッピングです。

  • インパクト:ビジネスへの貢献度。効果の見込みがどれだけ大きいか
  • 実現性(フィージビリティ):技術・データ・業務プロセスが整っているか。小さく早く成果を出せるか
インパクトと実現性の2軸で候補を並べ、右上の象限から着手することを示したマッピング図

並べたら、右上、つまりインパクトが大きく実現性も高い候補から着手します。他の象限の扱いは次のとおりです。

  • 実現性が高くインパクトが小さい:やれば動くものの、成果として社内に示しにくい。後回しでかまいません
  • インパクトが大きく実現性が低い:中長期の目標として置き、データ整備や体制づくりを先に進めます
  • どちらも低い:候補から外します

初年度に右上を選ぶ理由は、単に成功しやすいからではありません。次の予算を取るために「効いた」と言える実績が必要だからです。

実現性を見極める4つの問い

インパクトは業務を知っていれば見積もれますが、実現性は判断がぶれやすい軸です。「できそう」「難しそう」という感覚で決めると、あとからデータが無い、使う人がいないといった問題が出てきます。

実現性を見極める4つの問い(Why・What・Who・How)を並べたチェックリスト図

実現性は、次の4つの問いに具体的な答えがあるかで見極めます。順番に確認してください。

  1. Why(なぜやるか):解決すべき業務課題と、それが解けたときのビジネス価値が言葉になっているか。「AIでなくても解けるのでは」と聞かれて答えられるかを確認します
  2. What(何を使うか):使えるデータが実際に存在するか。何もないところからは始められません。どこに、どんな形式で、どれだけの量があるかまで確認します。この棚卸しの進め方はデータ活用の進め方。AI導入前に必須の「社内データ棚卸し」5ステップで解説しています
  3. Who(誰が進めるか):推進できる人がいるか。ここは自社の担当者だけでなく、業務を知るドメインエキスパートと、実装を担う外部パートナーを含めた体制で考えます
  4. How(どう回すか):運用フローとコスト構造が描けているか。誰がいつ使い、誰が結果を確認し、月々いくらかかるのかを見積もります

4つすべてに「イエス」と言える材料が揃って、初めて実現性が高いと判断できます。1つでも空欄が残る候補は、その空欄を埋める作業から始めるほうが結果的に早く進みます。

効果が出やすい領域の3条件

もう少し粗く当たりをつけたいときは、次の3条件で見ると外しにくくなります。

  • データがある程度構造化されている:表形式のデータや、書式が揃った文書。形式がばらばらの手書き資料しかない領域は、前処理の負荷が読みにくくなります
  • AIの出力を業務にどう組み込むかがそこそこ明確:出てきた結果を誰がどの画面で受け取り、次に何をするかが想像できる状態です
  • 失敗しても致命傷にならない:いきなり安全や品質保証、与信判断のようなクリティカルな領域には取り組みません

3つ目は特に重要です。最初の1件で大きな事故を起こすと、社内のAI活用そのものが止まります。

日本企業の着手順に見る3つの層

実際に企業がどの順で手をつけているかを見ると、おおよそ3つの層に分かれます。自社の位置を確認する目安として使えます。

  • 第1層:汎用テキスト業務。文章作成、要約、論点整理、翻訳など。既存のAIツールをそのまま使えるため着手しやすく、多くの企業がここから入ります
  • 第2層:ナレッジ活用による自己解決。社内規程や過去のQ&Aを参照して答える社内向けの仕組みです。技術的にはRAG(社内文書を検索してAIの回答に反映させる仕組み)を使います。構築の進め方はChatGPT×RAGで社内データを活用する5つの手順にまとめています
  • 第3層:業界特化。製造業の外観検査や需要予測、小売のレコメンド、金融の審査、医療の記録要約など。競争優位の源泉になりますが、データ整備と業務設計の難度は上がります

選び方さえ間違えなければ、効果は出ます。MMD研究所の調査では、ビジネスで生成AIを活用している人のうち70.6%が業務効率の向上を感じていました(参考:MMD研究所「生成AIのビジネス活用に関する調査」)。裏を返せば、効果が出ないケースの多くは技術ではなく対象の選び方に原因があるということです。

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AI戦略の柱2「段階」。3年のAI導入ロードマップに落とす

着手先が決まったら、次はそれをどの順番でどこまで広げるかという段階の設計に移ります。ここで大事なのは、フェーズごとに越えるべき壁が違うと理解しておくことです。同じやり方の繰り返しでは次の段階に進めません。

初年度・2年目・3年目の3フェーズと、それぞれで越える壁(PoC止まり・本番運用・全社展開)を示したロードマップ図

初年度:スモールスタートとPoC(越える壁=PoC止まり)

初年度のゴールは、優先度の高い課題でAIの有効性を検証し、次のフェーズに進むかどうかを意思決定できる状態を作ることです。全社基盤の構築ではありません。

進め方は次の順で回します。

  1. 準備:対象業務の現状フローと、使えるデータの所在を確認する
  2. ユースケース選定:前章の2軸マッピングと4つの問いで、着手する1件から数件を確定する
  3. PoC設計:何をもって成功とするかの基準(精度、処理時間、削減工数など)を先に決める
  4. 実施:まずは既存のAIツールで試せる範囲から始め、必要に応じて作り込む
  5. 評価・意思決定:基準に照らして結果を判定し、本番化するか、条件を変えて再検証するか、取りやめるかを決める
  6. 次の準備:本番化するなら、翌年度の予算と体制を確保する

3の成功基準を先に決めておくことが、PoC止まりの壁を越える鍵になります。基準が無いまま始めると「動いたけれど、これで良かったのか判断できない」で終わります。PoCの進め方はAI PoCとはでも詳しく扱っています。

2年目:本番運用と限定的な横展開(越える壁=本番運用)

初年度に目が出た案件を、本番の業務に載せる年です。検証段階では見えていなかった作業がここで一気に出てきます。

  • AIモデルを、日々使われる機能として製品化する
  • 既存の基幹システムやグループウェアと接続する
  • 監視、ログ、権限管理、コスト管理といった運用基盤を整える
  • 使う人向けの手順書と問い合わせ窓口を用意する

同時に、うまくいった業務に近い部署へ限定的に横展開します。全社ではなく、条件が似ている2つか3つの部署までです。ここで「他部署でも同じように使えるか」を確かめておくと、翌年の全社展開の見通しが立ちます。逆にこの段階で使われないまま放置される仕組みが出てくると、翌年の全社展開は成立しません。

3年目:全社展開と内製比率の引き上げ(越える壁=全社展開)

3年目は、継続的に価値を生み出す状態と、自社で回せる状態を目指す年です。この段階になると、個別案件を作る力よりも、組織として再利用できる資産を持っているかが効いてきます。

段階を踏んで広げた例として、住友商事の取り組みが公開されています。2023年4月にグループ会社と共同でCDO・CIO傘下に生成AI活用ワーキンググループを組成し、翌5月には実装を推進するCoE組織「SC-AI Hub」を設立。そのうえで、鋼管トレード事業で社内ルールや法令、業務知識を保持したアシスタント機能を、消費者関連事業で顧客の声(VOC)を要約・分析するツールを実証しています(参考:住友商事「生成AIを活用した事業DXの加速化」)。

ワーキンググループから始めて推進組織を立て、事業部の実務に落とすという順番は、規模が違っても参考になります。横展開が効くのは、次のようなものを共通資産として持てたときです。

  • 活用ルールとガバナンス基準
  • データの取り扱い基準
  • プロンプトや処理モジュール、モデルのコード
  • 教育・人材育成のプログラム
  • 共通の基盤・インフラ

これらが揃っていると、需要予測、在庫最適化、設備の異常検知といった別テーマに移っても、毎回ゼロから設計せずに済みます。

費用はPoCと本番化に分けて計画する

予算を1本にまとめて申請すると、金額が大きく見えて通りにくくなります。分けて計画してください。

区分何に使うか進め方
PoC費用対象業務の整理、データ確認、検証環境の構築、効果測定初年度予算として単年で申請する。金額を抑え、意思決定の材料を得ることを目的にする
本番化の追加投資本番システムの開発、既存システム連携、運用基盤、保守PoCで目が出てから翌年度予算として申請する。案件の規模により数百万円から1,000万円程度が一つの目安

よくある通し方は、初年度にPoC予算を取り、結果が出てから翌年度に本格化の予算を取りに行く形です。この2段構えにすると、経営側も「まず小さく試す」という判断がしやすくなります。費用の内訳と投資対効果の説明方法はAIのROIを経営に説明する方法で詳しく解説しています。

開発アプローチは既存ツールからフルスクラッチまでの連続で選ぶ

「AIを導入する」と言っても、作り方には幅があります。両極ではなく連続したグラデーションとして捉えると選びやすくなります。

  • 既存のAIツールを活用する:ChatGPTやClaudeなどをそのまま業務で使う。自由度は低いものの、コストが軽く、明日から試せます
  • ローコード・ノーコードのプラットフォームを使う:Difyなどを使い、社内文書を読ませたワークフローを組む。ある程度の自由度とコストのバランスが取れます
  • フルスクラッチで開発する:要件に合わせて設計から作る。自由度は高い分、費用と期間がかかります。機密データを外に出せない環境でのローカルLLM構築などはこの領域です

すべてを同じ方式で揃える必要はありません。第1層の汎用業務は既存ツール、第2層の社内ナレッジ活用はローコード、競争優位に直結する第3層だけフルスクラッチ、といった使い分けが現実的です。

AI戦略の柱3「体制」。誰が回すかを設計する

優先順位と段階が描けても、動かすのは人です。最後の柱として、AI戦略を実行する体制を設計します。ここを空欄のままロードマップだけ作ると、誰も手を挙げないまま計画が形骸化します。

人材は取り合っても取れないという前提に立つ

まず現実を確認します。IPA(情報処理推進機構)の「DX動向2024 – 深刻化するDXを推進する人材不足と課題」では、DXを推進する5つの人材類型すべてで不足感が高く、「大幅に不足している」と「やや不足している」を合わせると8割から9割を占めていました。最も不足しているのはビジネスアーキテクト、次いでデータサイエンティストです(参考:IPA「DX動向2024 – 深刻化するDXを推進する人材不足と課題」)。

同調査では、DXで成果が出ている企業でも「大幅に不足している」と答えた割合が過半数を超えていました。つまり、成果を出している会社も人手が足りない状態のまま進めています。専門人材が揃うのを待つ計画は、実行される見込みが低いということです。

現実的な打ち手は2つあります。

  • 専門人材を取り合うのではなく、自社の業務課題を理解し、どの業務にどのAIを使うか判断・実行できる人材を社内に増やす
  • 足りない専門性は外部と組んで埋める

内製と外注はハイブリッドで分ける

そのうえで、握る部分と借りる部分を分けます。

  • 自社で握る:企画、業務要件の定義、優先順位の判断、戦略とビジョン、効果の評価
  • 外部と組む:高度なアルゴリズム開発、実装、システム構築、PoCのプロトタイピング

この分け方には理由があります。何をやるかの判断を外に出すと、ノウハウが社内に残らず、次の年も同じように外部に頼ることになります。逆に、実装まで全部を自社で抱えると、人材の確保が制約になって着手が遅れます。判断は自社、手数は外部、という切り分けが、内製化を段階的に進めるうえでも現実的です。

内製比率は初年度から高くする必要はありません。初年度は基盤づくりと検証に集中し、2年目、3年目と経験を積みながら徐々に上げていく形で十分です。

AI戦略の実行に必要な4つの役割

体制を人数ではなく役割で考えると、抜けが見つけやすくなります。

AI戦略の実行に必要な4つの役割と、経営層・CoE・事業部推進担当の3層構造を示した体制図
役割担うこと内製・外部の目安
①推進責任者全体戦略、投資判断、優先順位の決定、経営との接続自社
②業務側リーダー(ドメインエキスパート)対象業務の実態把握、要件の言語化、現場との調整、出力の妥当性判断自社
③データサイエンティスト・AIエンジニアデータ処理、モデルの選定と評価、精度改善外部と協業しやすい
④ソフトウェアエンジニアシステム構築、既存システムとの連携、運用基盤外部と協業しやすい

抜けやすいのは②です。エンジニアだけを揃えても、業務のどこで使うかが決まらないため出力が現場に届きません。逆に事業部だけで進めると、データの前処理や精度評価で行き詰まります。②の関与があるかどうかが、PoC止まりの3つの不整合のうち「組織の不整合」を防げるかを左右します。

経営層・CoE・事業部推進担当の3層で野良AIを防ぐ

役割が決まったら、それをどの組織に置くかを決めます。全社で回す場合、次の3層に分けるのが扱いやすい形です。

  • 経営層:投資判断と優先順位の承認。AIは間違えることがあるという前提を含めて、リスクの取り方を決める
  • 全社横断のCoE(センター・オブ・エクセレンス):AI活用を全社的に推進する専門組織のことです。技術の標準化、ガバナンスとリスク管理、共通基盤の整備、人材育成を担います
  • 各事業部のAI・DX推進担当:自部門の業務課題の洗い出しと、現場への展開

分ける理由は、事業部に全社統一を担わせるのが無理だからです。事業部は自分の事業の効率化を優先しますし、それは本来の役割として正しい判断です。一方で、共通基盤やルールの整備は、どこか一部門の利益では正当化できません。だから横断組織が要ります。

この3層が機能していないと、各部署が個別にツールを契約し、社内に把握されていないAI利用(いわゆる野良AI)が増えます。どのデータがどのサービスに入っているか分からない状態は、情報管理の面でも、投資の重複という面でも問題になります。利用ルールの作り方は生成AIの利用ルールの作り方にまとめています。

AI戦略を描いた後につまずく5つの点

優先順位・段階・体制の3つの柱が揃いました。最後に、描いた後の実行段階で実際に起きるつまずきを押さえておきます。多くは事前に手を打てるものです。

つまずき何が起きるか対策
①ロードマップを作って満足する資料はできたが、翌月から誰も見ない。半年後に前提が変わっていても更新されない四半期ごとの見直しを最初から予定に入れ、更新の担当者を決めておく
②成功の基準を決めずに始める検証は終わったが、本番に進めるかの判断ができないPoC設計の段階で、精度・処理時間・削減工数などの合格ラインを数値で決める
③現場に丸投げする推進担当が兼務のまま孤立し、通常業務に押されて止まる稼働時間を確保し、経営層が定例で進捗を見る場を作る
④効果を測る仕組みが無い使われているかどうかも分からず、次の予算の根拠が出せない利用者数、利用回数、対象業務の処理時間といった指標を導入前に決め、導入前後で比較する
⑤すべてを固めてから動こうとする全社の理想像を描くうちに1年が過ぎるまず1件のPoCを走らせ、そこで得た事実でロードマップを書き直す

特に多いのは⑤です。AI戦略は一度で完成させるものではなく、検証で分かったことを反映しながら書き直していくものです。紙1枚でもホワイトボードでも構わないので、まず現時点の下書きを可視化するほうが先です。

AIは間違える前提で設計・運用する

運用に入ってから最も揉めるのが、AIの出力が間違っていたときの扱いです。この点は体制の設計に含めておく必要があります。

  • 精度は100%にならないという前提を、経営層と事業部の双方が理解している状態にする
  • 誤りが起きたときに誰が気づき、誰が直すかを決めておく
  • 重要な判断に使う出力には、人が確認する工程を残す
  • 誤りの報告先と、その内容を次の改善に回す流れを作る

この設計があると、1回のミスで利用が止まる事態を避けられます。逆に「AIが間違えた」を想定していない運用は、最初のトラブルで信頼を失い、そのまま使われなくなります。

まとめ

本記事のポイントを整理します。

  • AI導入が止まる原因は技術力ではなく広げ方の設計。PoC止まりは技術・組織・経済の3つの不整合から生まれる
  • 日本企業の生成AI活用は56%に達した一方、効果が期待を大きく上回るとした企業は10%。点の成功は出ているが線になっていない
  • AI戦略とは、優先順位・段階・体制の3つを1枚に可視化すること
  • 優先順位はインパクト×実現性で並べ、右上から着手する。実現性はWhy・What・Who・Howの4つの問いで見極める
  • 段階は初年度(PoC)・2年目(本番運用と限定的横展開)・3年目(全社展開と内製比率の引き上げ)。フェーズごとに越える壁が違う
  • 費用はPoCと本番化に分けて計画し、本番化の追加投資は数百万円から1,000万円程度を目安に置く
  • 体制はハイブリッド。企画・要件・判断は自社、高度な実装は外部。役割4層と、経営層・CoE・事業部推進担当の3層で野良AIを防ぐ
  • AIは間違える前提で設計・運用する。すべてを固めるのを待たず、まず1件のPoCで事実を得てロードマップを書き直す

ウェビナー資料(ホワイトペーパー)のダウンロード

本記事の内容は、ウェビナー「自社AI開発ロードマップの引き方」をもとに再構成したものです。当日使用した資料では、優先順位づけの2軸マッピング、実現性を見極める4つの問い、3年の段階導入ロードマップ、体制と推進組織の置き方を、そのまま自社の検討に使える形でまとめています。

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  • AI活用のアイデアは出たが、どれから着手すべきか自社だけで判断しきれない
  • PoCで止まっており、本番運用に進むための設計と体制を整理したい
  • 3年程度のAI導入ロードマップを、費用と体制の見通しまで含めて描きたい

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この記事を書いた人

慶應義塾大学で金融工学を専攻。 卒業後はスタートアップのデータサイエンティストとして、AI・データ活用コンサルティング事業などに従事。 その後、株式会社セブン&アイ・ホールディングスにて、小売・物流事業におけるAI・データ活用の推進に貢献。 株式会社リベルクラフトを設立し、AIやデータサイエンスなどデータ活用領域に関する受託開発・コンサルティングや法人向けトレーニング、教育事業を展開。

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