「感覚や経験に頼ることなく、客観的なデータをもとに意思決定したい」と考える方は多いのではないでしょうか。
ところが、いざデータ分析をしようとしても、「データが散在していて自社の状況を俯瞰して把握できない」「データの収集・分析に膨大な時間がかかる」といった問題に直面することも少なくありません。
こうした問題は、生成AIを活用することで解消できます。本コラムでは、生成AIを活用して自社データをもとに分析する方法と、具体的な事例をご紹介します。
企業が抱えている自社データ活用に関する問題
企業は自社データ活用に関して、以下3つの問題を抱えていることが多くあります。
- 自社データが様々な場所に分散している
- データ形式が統一されていない
- 誰が何を把握しているか分からない
ある製造会社の事例をもとに解説します。
このメーカーでは、日々さまざまな実験をおこなっており、温度や湿度などの条件を変えたとき、完成品にどのような影響が出るかを検証しています。
同社は、これまで蓄積したデータを商品開発に活かそうとしました。しかし、過去のデータをもとに分析しようとしたとき、いくつかの問題に直面しました。
- 実験結果はExcel、作業報告書はWordやPDFで管理されており、形式が統一されていない
- それぞれ別のストレージ、PCのローカルなどにファイルが散在している
過去の実験データは形式が統一されておらず、集約もされていませんでした。
異なるファイル形式のデータを集約するにはPython(パイソン)のようなプログラミング言語を活用する必要があります。しかし、プログラミング言語を自由に活用できる人材はほとんどの企業・現場にはいないのが現状です。
しかし、生成AIを活用すれば、高度なプログラミングスキルがなくても社内データをもとに自動で分析できるようになります。
生成AIを活用してできる自社データ分析
異なるファイル形式のデータでも、生成AIが一度学習し、データを構造化して整理することで、分析できる環境を整えられます。データを構造化できれば、ユーザーは「この条件での分析結果を教えて」というように自然言語で指示を出すだけで、AIが必要な情報を抽出し、その分析結果を返してくれます。
たとえば、営業部長が「営業チームごとの成約率を知りたい」という要望をAIに伝えます。すると、データソースをもとに、直近1ヶ月間の営業チーム別成約率をAIが自動で集計・可視化してくれます。
さらに、AIはその結果を踏まえて分析結果の解釈や示唆まで提示することもできます。「全体的に各チームの成約率に大きな差はない」「Aチームだけ成約率が低い傾向があり、要因として~~が考えられます」といった形で出力することで、早く、精度高く意思決定するためのサポートをしてくれます。
【部門別】自社データをもとにした生成AIによる分析の例
ここでは、生成AIを活用してどのような自社データ分析ができるのか、部門ごとに例を挙げて解説します。
マーケティング部門
これまでのマーケティング分析は、購入回数や売上金額などのPOSデータが中心でしたが、生成AIの登場によって、定性的な顧客の声も活用できるようになりました。定性的なデータはこのような場面で活用できます。
- お客様の嗜好に合わせた商品レコメンド
- 購買体験の改善
- 購買理由と購買金額の相関分析
定性データも取り込むことで、定量データをもとにした分析だけでは見出せない示唆まで引き出すことができます。
営業部門
営業現場では、日報や営業報告書など、日々の活動を文字で記録することが多くあります。これらの報告書は多くの場合、ある程度フォーマットが決まっており、「いつ、どの企業と商談したのか」「どのような会話をしたのか」「その企業は現在どのようなステータスなのか」といった情報が含まれています。
生成AIを活用すれば、営業担当者が記録した情報をもとに、このような分析ができます。
- 今月、どの営業担当者が何件顧客訪問しているか
- 訪問回数当たりステータスの上昇率が高い営業担当者は誰か
- 目標に達していない営業担当者がほかの担当者と比べて足りていない中間指標は何か
このような分析を通じて、営業部門はより正確に現状を把握し、達成のための改善活動をおこなえるようになります。
カスタマーサクセス部門
カスタマーサクセス部門では、顧客から寄せられる問い合わせやアンケート回答内容、定例会議での議事録など、文字データが日々蓄積されます。これらのデータは、言及されているトピックごとに分類したり、ポジティブ・ネガティブといった感情スコアを付与したりすることで、サービスを改善すべき優先度をつけ、製品開発部に連携できます。
また、SaaS企業では、顧客が実際にサービスを使った際の行動ログを蓄積しますが、行動ログデータは膨大で、人力で分析するには多くの工数を要します。
生成AIを活用すれば、顧客の行動ログデータをもとにこのような分析ができます。
- よく利用されている機能は何か
- 顧客がどの機能を利用するときに戸惑っているか
- 解約に繋がりそうな顧客はどのようなサービス利用傾向があるか
自社サービスの行動ログデータをもとに分析することで、重点的に機能開発すべきポイントの抽出、最適な顧客サポートのタイミング把握、解約防止の施策立案などに繋げられます。
製品開発部
製品開発担当者は、温度、湿度、使用材料など、条件を変えながら実験を繰り返し、結果を記録しています。実験結果を記録する際、Excel、Word、PDF、メモなど様々なフォーマットを用いるため、実験結果が社内に点在し、分析することが困難になっている場合が多くあります
製品開発部で生成AIを活用すれば、過去の実験結果データをもとに以下のような示唆を引き出せるようになります。
- 10℃以下で保存すれば、消費期限を3週間まで引き延ばせる
- 材料Aと材料Bを○○%ずつ配合すれば、製造時の不適合品率を○%以内に抑えられる
過去の実験結果データを集約し、分析することで、より高品質な製品をより低コストで生み出すための改善活動に繋げることができます。
人事部門
人事部門は、生成AIを活用することで、履歴書や面接評価、入社後の実績など、分散している情報を整理・分析できるようになります。選考時の情報にあたる履歴書や面接評価と、遅行指標にあたる入社後の成績を掛け合わせることで、このようなことが分かります。
- 選考時に重視している要素は入社後の活躍にどの程度影響しているか
- 選考時に重視していないが、入社後活躍している社員に共通する要素はないか
このような分析をすることで、採用戦略の見直しや研修内容の改善などに繋げられます。
自社データを生成AIで分析するまでの流れ
自社データを生成AIで分析できるような環境づくりは、以下の流れで進めていきます。
- 1.対象データの収集
- 2.生成AIでデータを構造化
- 3.生成AIによる分析
はじめに、社内に散在するデータを収集します。関係各所に呼びかけ、Excelファイル、PDF、メール、社内システムからのデータなど、多岐にわたる情報を漏れなく集めていきます。
次に、収集したデータは生成AIで学習し、構造化して整理します。異なるフォーマットで蓄積しているデータを統一したフォーマットで整理することで、分析するための基盤を整えます。
社内データを構造化でき次第、生成AIを使って分析をおこないます。自社データを様々な切り口で分析し、業務改善や意思決定につながるインサイトを引き出します。
このように、収集・構造化・分析の流れを辿ることで、整備されていなかったデータ環境からも自社にあったデータ分析ができるようになります。
散在する自社データを生成AIで分析した事例
ネジなどの部品を取り扱うBtoB卸売業のA社での事例をもとに、生成AI活用について解説します。同社は営業担当者が多く、取り扱う商材も幅広い中で、いくつかの問題を抱えていました。
抱えていた問題
A社担当者へのヒアリングを通じて、同社は以下2つの問題を抱えているということが分かりました。
- 営業担当者ごとに成約率にばらつきがある
- アプローチすれば受注出来る提案機会を逃してしまう
多様な商品を取り扱うA社では、営業担当者の経験値によって把握している商品数に差があり、顧客課題に合わせて提案できる商品の精度に差が出ることにより、成約率にばらつきが生じていました。
また、市況環境や顧客ニーズの変化を捉えられていないがゆえ提案機会に気付かず、受注確度が高い顧客にアプローチできずにいるという問題も抱えていました。
このような問題が生じており、営業部門全体での受注件数・受注金額の頭打ちに直面していました。
問題解決のための取り組み
生成AIを活用して上記の問題を解消するために、弊社は以下の取り組みを通じて支援しました。
- 1.対象データの選定
- 2.データ収集
- 3.AIを活用したデータの構造化
- 4.社内データを分析できるAIの実装
まずは小さく始めるために、収集しやすい「営業日報」「商品マスタ」を対象としてデータを収集しました。生成AIによる分析環境整備は学習するデータ量に応じてプロジェクトの大きさが変わるため、まずは最小限のデータ量で進められるように対象データを選定しています。
対象としたファイルはお客様に収集してもらい、集約したファイルをもとにAIでデータを構造化しました。そして、構造化した社内データをもとに分析するAIを実装しました。
挙げられた成果
A社では、整備したデータ分析環境をもとに、このような分析をおこなっています。
- 特定の期間におけるエリアごとの商談回数の差異
- 商品ごとの提案回数の差異
1つ目の分析により、回り切れていないエリアが可視化され、アプローチすれば商談機会を得られる顧客が見えるようになりました。また、2つ目の分析により、本来顧客課題の解決につながるものの提案できていない商品が分かり、新入社員に紹介することで、ベテラン社員と新入社員の商品理解の差を縮められています。
その結果、商談機会の拡大・成約率の向上に繋がり、収益拡大に貢献できています。
コンサルティング・受託開発サービスの紹介
社内には価値あるデータが蓄積しているにもかかわらず、それを活用できずにいる企業が多いのが現状です。社内データは分析できる状態に整備することで、新たな顧客価値の創出に活かすことができます。その分析基盤は、貴社の収益拡大や業務効率化、顧客体験の改善などあらゆる好影響をもたらします。
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