日本の製造業が直面する人手不足や従業員の高齢化の課題が大きくなり、DXの緊急度が高まっています。
タック株式会社は、この課題に取り組む先進的な企業。デジタル技術を活用し、製造現場の生産性向上を目指しています。リベルクラフトは、同社が提供する『タックSmart工場クラウド』が製造業のDXを加速させるサービスになるために、本サービスの機能強化を支援しました。
本記事では、同社 ビジネス事業本部 製造・公共DX部の杉原真二氏にインタビューを実施し、リベルクラフトとともに進めている開発プロジェクトや今直面している課題、今後の製造業におけるDXの展望について伺いました。
PROFILE
プロフィール

杉原 真二 氏
タック株式会社 ビジネス事業本部 民需・公共DX部 部長
自動車関連会社に勤務した後、2009年にタック株式会社へ転職。親会社(製造業)のフィリピン工場の生産業務改善、国内・海外含めたイビデン電子製品工場の生産・品質管理システムの企画~運用保守を経験。
2017年に国内生産システムの切替を実施し、全工場設備からのデータ収集のIoT化を推進するとともに、チャレンジ領域をAIへ拡大。実践経験を通じて培ったノウハウを外部向け事業へ展開。
三好 大悟
株式会社リベルクラフト 代表取締役 データサイエンティスト
慶應義塾大学で金融工学を専攻。卒業後はスタートアップのデータサイエンティストとして、AI・データ活用コンサルティング事業などに従事。その後、株式会社セブン&アイ・ホールディングスにて、小売・物流事業におけるAI・データ活用の推進に貢献。
株式会社リベルクラフトを設立し、AIやデータサイエンスなどデータ活用領域に関する受託開発・コンサルティングや法人向けトレーニング、教育事業を展開。

生産能力の最大化をデジタル技術で支援する。タック株式会社の取り組み
まずはタック株式会社様の事業内容についてお聞かせください。
杉原 真二氏(以下、杉原氏) ヘルスケアソリューション、ビジネスソリューション(製造業用システム)、ネットワークソリューションの3つの事業を営んでいます。特に医療分野の「タック総合健診システム」「タックリハビリテーション支援システム」「タック電子カルテシステムDr.F(産婦人科・不妊治療施設向け)」はシェアNo.1製品であり、健康な社会の実現に尽力しています。
また、製造分野ではスマート工場化を目指して、顧客の競争力強化を支援しています。そのなかで私自身は長年、SEとしてシステム開発に携わってきました。製造業の業務効率化など、さまざまな課題に対し適切な解決策を提案できるよう、担当者へのヒアリングを重視しつつ、現場に合った仕組みづくり(システム開発)を目指しています。

製造業のスマート工場化では、具体的にどのような取り組みを行っていますか?
杉原氏 ここ数年は、タックSmart工場クラウドの開発プロジェクトを推進しています。タックSmart工場クラウドは、企業の生産能力を最大化するためのデジタル技術を活用したクラウドサービスです。IoT機器やセンサーを使用し、工場の稼働状況や生産設備の状態をリアルタイムでデータ収集し、可視化します。
まさに、製造業をDXで支える取り組みですね。
杉原氏 これがうまく稼働すると、製造業が抱える人手不足や作業員の高齢化の課題解決の基盤がつくれると考えています。
一方で、日々収集される膨大なデータを、業務改善にうまく利用できていないという問題もあります。
製品の生産数や不良品の数といった生産実績に関する膨大なデータは取得できるものの、それらをどう分析し、どんな対策を取れば業務がよりスムーズに回るのかまでの道筋が顧客側、また我々も明確に見えなかったんですよね。
解決手段のひとつとしてAIを活用すれば活路が見出せることは分かるのですが、我々にAIやデータサイエンスに関する知識が不足していたこともあり、顧客の要望に対し適切な提案ができずにいて。
AI・データサイエンスのプロの手助けを得ながらプロジェクトを進めていく必要があると感じていました。
リベルクラフトにはどのような役割を期待されていましたか?
杉原氏 データ分析やAIをどう利用すべきかわからないという我々の悩みに対し、他社の事例を豊富に知るリベルクラフトさんなら、柔軟な提案をいただけるのではないかと考えていました。実際、技術特化ではなく、我々のビジネス上の課題感を理解したうえで、本当に必要かつ有益な提案をしてくださると感じています。
実は、リベルクラフトさん以外にも、AI・データ活用の専門家を探すために数社とコンタクトをとりました。ただ、多くの会社の方と話すと、往々にして技術論に偏り本来の業務改善の目的から外れてしまう傾向があったんです。
我々が求めていたのは、顧客のビジネスニーズと技術をつなぐ「中継役」。リベルクラフトさんはまさにこの中継役の立ち位置にいてくれています。我々のやりたいことを理解したうえで、「こうすればいいのでは」と具体的に提案してくださり、かつその提案内容をリベルクラフト内の開発チームで実現していただけます。
私ひとりが多数の技術者を直接管理するのは難しいですが、間にリベルクラフトさんがいてくださることで、複雑で技術的な話に入ることなく、効率的にプロジェクトを進められるようになったと感じています。
PoCから実運用への道筋。AIエージェント、異常検知モデルの役割
プロジェクトでは「工場内AIエージェント」および「異常検知モデル」の構築が進んでいます。それぞれの具体的な内容についてお聞かせください。
杉原氏 製造現場の生産業務における課題解決を目的に開発を進めているのが「工場内AIエージェント」です。これは、生産設備や生産業務に関する知識やノウハウに、担当者がアクセスしやすくなることを目指しています。

例えば、ある機器に不良が起こったとしましょう。そのとき現場に、機械の扱いに慣れた熟練者がいればすぐに問題解決できますが、そうでない場合、現場にいる人だけで迅速な対応が難しくなります。
この現象は何なのか、過去に同じことがあったのか。情報を持っている人を探す間に製造ラインが止まり、生産全体がストップすることも考えられますよね。
この課題に対する解決策として、AIエージェントの構築に取り組み始めました。過去の記録文書などから関連情報を抽出し、現場担当のあらゆる質問に対し適切に回答することを目指しています。
ChatGPTのような対話型インターフェースをイメージしていて、例えば上記のような設備不良など緊急時に、現場の担当者が発生原因とその対策など必要な情報にアクセスできるようにするのが狙いです。
まずはPoCを作り検証を進めていて、実際にお客様にも使用してもらいながら課題の洗い出しを行っているところです。
具体的に見えた課題はありますか?
三好大悟(以下、三好) データの管理方法と適切な情報の抽出に改善の余地があります。

三好 製造業の現場では、様々な種類の情報が日々蓄積されています。例えば、機械の故障履歴、メンテナンス記録、生産ラインの稼働状況など、多岐にわたるデータが存在します。しかし、これらは必ずしも体系的に整理されているわけではありません。異なる形式で保存されていることもあるんです。
それら多種多様なデータの海のなかから、ある質問に対しAIエージェントが適切な情報を抽出し、正確な回答を出すのは容易ではありません。異なる事象のデータが混在していることで、必要な回答が返ってこないなどの問題が発生しています。
杉原氏 誤った情報を、さも正解のように出してしまうのは大きな問題ですよね。誤答してしまわないためのコントロールはまだ不十分で、今後より一層、回答内容の精度を上げていく必要があると考えています。
次に、「異常検知モデル」の仕組みについてもお聞かせください。
杉原氏 異常検知モデルでは、IoTセンサーを活用して設備の状態をリアルタイムで監視します。
よくある工場現場では、各設備に対し定期的なスケジュールに基づいて点検や部品交換を行っています。ただ定期点検だと、本来ならまだ使えるものでも時期がきたからという理由だけで交換してしまうことがあり、コストが必要以上にかかるという問題が起こっていたんです。
異常検知モデルでは、電流や電圧、抵抗値など詳細なデータをリアルタイムで収集し、AI(機械学習)による分析を行うことで設備異常を早期に検知することが可能になります。
異常検知モデルが正しく働けば、設備の実際の状態に基づいて最適なタイミングでメンテナンスできるため、不要なメンテナンスを減らしつつ必要な保全を適切に行えます。
コスト削減と設備の効率的な運用が実現しますね。
三好 IoTとAIを組み合わせたアプローチは、単なる故障予測だけでなく製造品質の向上にも貢献しうると考えています。
設備の状態をより詳細に把握すれば、製造プロセスの最適化や品質管理の精度向上にもつながりますよね。実運用までの道のりはそう簡単ではないですが、異常検知モデルを含め、今開発を進めているものはすべて実用化させようと日々、一つひとつのタスクに取り組んでいます。
必要なのは自動化ではなく課題の発見・定義。製造業のDXを加速させるために必要なこと
顧客のDXを進めるうえで、大切なことを教えてください。
杉原氏 顧客から「AIを使って生産効率を上げたい」と言われたとき、そもそも生産効率が上がらない原因が何かがわからないと適切な一手が打てません。
効率が悪いのは元となる生産計画に問題があるのか、それとも設備の停止が多いからなのかによって対応策が変わるからです。
我々がまず注力すべきは、顧客の抱える課題を的確につかむこと。そのうえで解決に向けての青写真を描きリベルクラフトさんと共有できれば、顧客が本当に必要としているシステムが生み出せると考えています。
顧客の課題を正しく定義したうえでリベルクラフトさんと手を組むことで、単なる自動化にとどまらない、顧客の事業を飛躍させうる真のDXを進められます。
三好 データを効果的に使うには、技術だけでなくビジネス目標との整合性や実際の活用シナリオを考えることが大切です。
単に「AIを入れたい」だけではなく「具体的にどの業務でAIをどう使いたい」という要望が明確であれば、それを技術者側がいかに実現するかを検討できます。
しかし、製造現場の方が実際の業務にAIをどう活用できるか、リアルにイメージすることは難しい場合もあります。
だからこそ、ビジネスと技術をつなぐ“ビジネストランスレーター”の役割を、リベルクラフトが担っていければと考えています。
今後も、データサイエンスの専門家としてお客様の立場を大切にしながら、価値ある提案を続けていきたいですね。

AIを導入すればすべての問題が一気に解決するわけではないのですね。
杉原氏 そうですね。生成AIが話題になって久しく、ChatGPTの導入や大規模言語モデルを活用した業務の変化、生産性の向上といった流れがあるのは間違いないでしょう。
一方、これらは一朝一夕に結果が出るものではありません。製造現場において、データをAIに投げ込めば生産作業が終わるわけでもなければ、ビッグデータを使ったからといってただちに設備の点検が不要になるわけでもないんです。
大事なのは「成果が見えないからやめる」と判断を早まらないこと。業務に関わるデータをしっかりと整えて蓄積し、機械学習などの技術を適切な場面で活かそうとし続ける姿勢こそが必要です。地道な取り組みを続ける忍耐強さが、DXの成功には不可欠なのだと思います。リベルクラフトさんと協業しながら、製造業のDXを支えるシステムの開発を引き続き進めていきます。